以前のコラムでは法人成りの具体的なメリットとデメリットについてご紹介致しました。その中でデメリットの一つで社会保険の加入がありましたが、今回は「逆に」社会保険の加入のメリットについて解説させていただきます。

社会保険の加入条件
社会保険は大きくは、健康保険(介護保険含む)、厚生年金保険、雇用保険、労災保険など公的保険の総称ですが、ここでは社会保険=健康保険と厚生年金保険に絞って解説させていただきます。
給与を支払う事業所は、原則として社会保険(健康保険&厚生年金保険)への加入が法律で義務づけられています。(強制適用事業所)
法人事業所:すべて
個人事業所:常時従業員を5人以上雇用している場合
つまり、クリニックを個人事業で開業し、常時従業員が5人未満であれば社会保険には加入する義務はありません。ただし、法人成りをした場合には、たとえ常時従業員が5人未満でも社会保険に加入しなければなりません。 以前は法人であっても社会保険に加入せず、個人事業同様に未加入で営業されているクリニックも少なくありませんでしたが、近年マイナンバー制度の適用など、社会保険の加入の取り締まりが非常に厳しくなってきています。
社会保険料の負担(デメリットといわれる理由)
役員報酬500,000円の場合・・・(令和7年3月現在、介護保険料含む)
・健康保険料 28,750円(5.75%)
・厚生年金保険料 45,750円(9.15%)
・合計 74,500円(14.9%)
ここからが大きなポイントなんですが・・・
実は上記金額は院長先生個人の負担額で、クリニック(法人)は上記とほぼ同額を負担する必要があります。
即ち、上記の約2倍の15万円程度を院長先生とクリニックで負担する必要があるため、役員報酬50万円で実質15万円、報酬額の約30%の保険料負担となります。
この金銭的負担が法人化に二の足を踏む最大のポイントであり、デメリットといわれる理由です。
社会保険に加入するメリット
逆に、社会保険に加入するメリットについてご説明致します。
①老後に受け取れる年銀額が増える
社会保険に加入すると、国民年金に加え厚生年金を受給することができます。基礎年金に加えて報酬比例部分の年金を受けることができ、老後に生活をより安定にすることができます。
②手厚い保険制度が利用できる
社会保険に加入すると健康保険組合や協会けんぽなどの保険者が提供する手厚い保障を受けることができます。病気やケガで支給される「傷病手当金」や出産時に支給される「出産手当金」などが利用できます。
また、病気や障によって日常生活や就業に制限を受けた場合に受給できる「障害厚生年金」や、加入者が亡くなった際に遺族が受け取れる「遺族年金」などの保険機能も備えています。
国民健康保険や国民年金には無い、万が一に備えた手厚い保険制度を利用することができます。
③従業員の安心感・満足度向上、優秀な人材確保
社会保険を完備したクリニックとして従業員さんに安心や満足度を感じていただけるかも知れませんし、人材定着率を向上させる効果が期待できます。
また、未来の人材確保をする際の有効な待遇であり、クリニックのイメージの向上につながります。
社会保険加入のタイミング
法人成りを判断するタイミングと似ていますが、社会保険加入の判断は所得金額(=売上高-経費)が900万円を超えるときが一つのタイミングといえます。
所得金額が900万円を超えるタイミングは、所得税率(23%)が法人税率(23.2%)を超え、また、所得税の累進税率がグンと上がる(23%→33%)タイミングです。 このタイミングで法人成りをして社会保険に加入し、役員報酬を上手に設定すれば、高い税率で負担する税金を社会保険料に変換できる可能性があります。
税金の負担を社会保険料の負担へチェンジ!
クリニックを法人成りすると、院長先生に役員報酬を支給します。そこで社会保険に加入する必要がありますが、利益をすべて役員報酬で吐き出さず、控えめに設定すれば、社会保険をある程度節約することができます。また、法人に残った利益の額によっては税率の高い所得税から、税率の低い法人税に税目を変えることができます。
法人成りによって新たに生じた社会保険料は金銭的負担がありますが、クリニックの法人税を減少させる経費にもなり、院長先生の役員報酬に対する所得税を減少させる所得控除にもなります。
つまり、社会保険料の金銭的負担は増えますが、税額が減少する効果もあり、上手に設定すれば個人・法人トータルの手取り額が変わらない、場合によっては増える可能性があります。
クリニックの収益の状況や、院長先生が設定する役員報酬の額によりますが、うまく設定することで支出のウエイトを税負担から社会保険料負担に変更することができます。
◯個人事業の負担 が 300万円(内訳:税金 180万円、国保&国民年金 120万円)
◯法人成り後の負担が 300万円(内訳:税金 100万円、社会保険 200万円)
税金は納付してしまうと、原則として戻ってくることは有りませんが、社会保険の場合は年金として戻ってくる部分もあり、万が一の保険の機能もあります。
年金は生きている限り受給できますので、平均寿命が伸びている近年は長生きすればそれだけ回収できます。(逆に、長生きした場合の金銭的リスクを抑えることができるともいえます)
以前のコラムでは、社会保険の加入を法人成りのデメリットとしてご紹介致しましたが、法人の利益や役員報酬を上手に設定することで、デメリットの解消~メリットへの変換する可能性があることを解説致しました。上記でご不明点等ありましたら、ご遠慮無くお申し付けくださいませ。
また、弊所では法人なりのシミュレーションなどもサポートさせていただいております。ご検討の一助になれと思われますので、宜しければご利用くださいませ。